月刊・デンタルニュース

(平成25年10月号)

誤嚥は飲食物などが胃ではなく、誤って気管に入ってしまうことです。通常咳反射によって、むせることで異物を気管から吐き出しますが、これは『顕性誤嚥』と呼びます。一方、誤嚥しても咳反射のみられない『不顕性誤嚥』と呼ばれるものがあります。不顕性誤嚥は、飲食物や少量の唾液が気付かないうちに気管に入るもので、食事中や夜間の睡眠中にみられます。要介護の方では、神経麻痺や筋力の衰えにより気管の感覚が鈍くなることと、嚥下反射の低下の2つが主な原因となり、むせなどの自覚症状がありません。誤嚥によって口腔内の細菌が気管に入り、肺炎を引き起こします。肺炎は高齢者の死亡原因第3位でもあり、予防が大変重要です。

健常者にもみられる不顕性誤嚥

誤嚥性肺炎は口腔内の歯周病菌が主な原因と言われています。実は不顕性誤嚥は誰にでもみられるものですが、健常者では口の中が清潔に保たれているために肺へ入る細菌の量が少なく、免疫機能が正常なことから肺炎になりません。しかし要介護の高齢者では免疫力が低い上、下記のような理由で、口腔内の細菌が大繁殖しやすい環境にあります。
1.自分で歯を磨けない・入れ歯を洗浄できない
2.唾液の分泌量が少なく食べかすを洗い流せない
3.経管栄養等で口から食事をとれないため食べる(咀嚼する)ことで働く自浄作用が機能しない

肺炎の症状もわかりにくい・・・

不顕性誤嚥による肺炎の場合
①発熱
②頻繁に咳き込む
③痰の量が多くなる
といった典型的な症状がみられません。その上、本人からの訴えも明確でないことが多いため診断治療が遅れがちになります。食欲低下、慢性的な微熱、会話が減る、普段と比べて元気がないなどの異変に気付いたら、その時点で積極的に肺炎検査を受けることをおすすめします。

肺不顕性誤嚥の対応方法

肺炎になってしまった場合は、抗生物質による治療を行いますが、再発を繰り返して耐性菌を生じやすいというリスクがあります。顕性誤嚥の場合なら口腔リハビリや嚥下訓練という対応方法もありますが、睡眠中の不顕性誤嚥には、 あまり効果を期待できません。それよりも口腔ケアを行って口腔内の細菌数を減らす方が効果的です。過去に行われた複数の研究結果から、口腔内を清潔にすれば4割の顕性誤嚥を予防できることがわかっています。

普段から口腔内細菌を減らすため
①入れ歯は毎食後きれいに洗浄する
②舌苔ブラシで舌もきれいにする
③入れ歯は外して寝る
④うがいの時の水量は少なくする
などの点を心がけましょう。そして顕性誤嚥を予防するために、歯科衛生士などによる専門的な口腔ケアを定期的に受けることをおすすめします。

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