(平成27年9月号)

今月は『iPS細胞による再生医療』についての話題をご紹介します。
iPS細胞は心臓や胃腸等、身体の器官を構成する様々な 組織の細胞に変化する能力を持つ、細胞のことです。山中教授が平成18年に論文発表してから、わずか6年という異例の早さ でノーベル賞を受賞したことからも、iPS細胞の凄さがわかります。病気等で働きが低下した器官を 試験管を用いて代用の細胞を作製し、それを補う治療のことを再生医療といいますが、平成26年9月 には、目の難病患者さんに、iPS細胞から作った網膜組織の移植手術が行われました。iPS細胞を使った世界初の再生医療です。 現在、いろいろな病気に対してヒトでの試験が実施・予定されつつあります。5~10年後には、iPS細胞による再生医療の実用化 が現実味をおびてきました。

1.幹細胞が新しい細胞を作り続ける

人間の身体は、60兆個の細胞からできています。役割によって約260種類に分けられ、数種類の細胞が組み合わさって、いろいろな器官を作っています。ほとんどの細胞には寿命があり、新しい細胞と入れ替わることで、器官の働きを維持しています。 この新しい細胞を生み出すことができるのは、幹細胞(かんさいぼう)という特殊な細胞だけです。幹細胞は 自分自身を複製する能力と、器官を構成する数種類の細胞を作り出す能力を持っています。 幹細胞があるから、私たちは数十年も身体を維持できるというわけです。

2.現在行われている移植手術の課題

骨の中の骨髄には、赤血球や白血球等の血液細胞を作り出す幹細胞があります。白血病の患者さんへ移植すれば、 正常な血液を作れるようになります。これも再生医療の1つです。しかし提供者探しや骨髄を採取する時の負担が 大きいこと、適合する型でなければ拒絶反応が出る等の課題があります。また幹細胞は加齢と伴に分化能力が減少する ことが知られていて、それを培養するしか不可能でした。

3.iPS細胞からほとんどの細胞を作れる‼

iPS細胞は、皮膚等から取った細胞に、少しの因子を加えて培養することで、無限に自己複製する能力と、ほとんどの細胞に変化する能力を持つ万能細胞になります。患者さんの皮膚から細胞を採取してiPS細胞を作れば、負担も 拒絶反応もほとんどなく、必要なある程度の細胞を作り出すことができるのです。

実は歯科領域でも、すでにiPS細胞や再生医療の研究が進められています。次号では、歯の神経の再生等についての 話題をご紹介したいと思います。

▲このページの先頭へ