(平成27年10月号)

今月は『iPS細胞による再生医療』について将来的な展望をご紹介します。
要介護の原因疾患として多い脳閉塞、関節疾患、アルツハイマー病等では、iPS細胞を使った治療の研究が急速に進んでいます。 今後の医療技術の進歩によっては、要介護を回避できるようになるかも知れません。iPS細胞を作るときは、はじめに元となる細胞 を身体から採取する必要があります。この細胞は、次のような条件を満たす細胞が良いと考えられています。
①負担無く採取できる。
②DNAの損傷が少ない。
③iPS細胞を作製した後の増殖能力が優れていること。
実は歯の神経と呼んでいる歯髄細胞がこれら3つを満たしているのです。

1.歯髄細胞は再生医療に最適な細胞!?

歯髄細胞は、歯のエナメル質と象牙質に守られた状態で存在していて、細胞のDNAを傷つける紫外線やX線を骨よりも通しません。 また歯髄細胞からiPS細胞を作ると、その増殖能力は皮膚や骨髄の細胞から作る場合よりも高く、大変効率的に増殖することが明らか になっています。現在、1年間に1千万本の歯が抜かれて、そのまま廃棄されています。これら廃棄される歯の中でも、乳歯や30歳 以下の親知らずは、幹細胞を多く含んでいて再生医療で用いるにはとても適しています。乳歯や親知らずなら、骨髄や臍帯血と比較しても 負担や制約が少なく患者さんから採取することができます。既に歯髄細胞バンクという取り組みが始まっていて、あらかじめ歯髄細胞を 採取して、増殖・凍結保存しておくことで、いつでも必要な時に、すぐ使える体制が整えられようとしています。iPS細胞による再生医療 が実用化されればさらにその応用範囲が広がることが期待されます。

2.歯科領域の再生医療の現状

<ヒトでの試験段階>
平成25年には、培養して増やした歯髄細胞を顎の歯に移植して、歯を支える歯槽骨(しそうこつ)の再生治療に成功しています。

<動物での試験段階>
現在マウスレベルにおいて神経を抜いた歯へ幹細胞(ステムセル)より作製した歯髄細胞を移植して、歯の神経や血管を再生させる事が 可能になっています。 マウスでは既に歯そのものを口の中で再生することに成功していて、将来的に人への応用が期待できます。 その他、歯の歯髄細胞は神経系由来の幹細胞を多く含んでいるため、脊髄損傷、脳梗塞、パーキンソン病等の神経再生を中心に実用化へ向けた研究が進められています。さらに歯髄細胞はホルモン分泌と免疫調整にも関与していて、肌の再生や アレルギー疾患の治療に関しても取り組みが行われています。

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