(平成27年12月号)

今月は「口腔ケアとインフルエンザ」のご案内です。 冬支度の季節となりました。健康面では、インフルエンザの対策をはじめる時期です。 A型という種類のウイルスは流行性が高く、一般のかぜ症候群と違い、38℃以上の発熱、悪寒、関節・筋肉痛を伴います。 ウイルスは感染後24時間で100万個にまで急激に増殖し、小児や免疫力の低下している高齢者では重症化しやすい疾患です。 その感染力は非常に強く、全国5000箇所の医療機関から報告される情報を元に毎週発生状況が発表されます。 現在は、手洗い、うがい、予防接種が基本対策としてよく知られていますが、実は口腔ケアでかなりの予防効果が期待できるのです。

ウイルスの感染・増殖のメカニズム?

感染・増殖のメカニズムはすでに解明されていて、ウイルス表面に存在するHAとNAという2つの物質が感染・増殖のポイントとなります。 それぞれ種類がありインフルエンザの型を表す際、“H1N2型”等と表記しますので、ご存知かもしれません。

<HA>口から入ったウイルスが、気道の粘膜細胞に吸着・侵入するためには、ウイルスの表面のHAという部分が活性化している必要があります。 口に入った時点ではまだ不活性型の状態ですが、口腔内の細菌等が作る酵素によってHAは活性型となります。

<NA>粘膜細胞に侵入したウイルスは遺伝子を複製して約1000個の新しいウイルスを作り出します。 そして次の粘膜細胞に侵入して感染を拡げるため、一旦元の粘膜細胞から外に出るのですが、この時にウイルスと粘膜細胞の切り離し にNAという物質が使われます。口腔内の多くの細菌もNAを産生するので、口腔が汚れているとインフルエンザの増殖をさらに助長する ことになります。インフルエンザ治療薬のタミフルは、このNAを阻害することで効果を発揮します。 逆に口腔内が汚れているとタミフルが効きにくくなることもわかっています。

インフルエンザの発症を1/10に?

上記のメカニズムから、口腔ケアの有効性について、厚生労働省の研究調査が実施されています。 結果は、65歳以上のデイケアに通う要介護者190人に対して行ったところ、口腔ケアを週に1度実施したグループは 実施しなかったグループと比較してインフルエンザの発症を1/10に予防し、NAの減少も認められ、口腔ケアの有効性が確認されています。 (阿部修等、社会保険研究所、2004)
この冬にはさらなる検証のために、日大歯学部の落合教授を中心とした研究チームが、高齢者を対象に大規模な疫学調査を始める予定です。

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