(平成29年9月号)

今月は『口腔機能を向上させる訓練方法③』として、構音(こうおん)訓練をご紹介したいと思います。構音とは医学的な専門用語で、一般的には発音や発声のことです。他人とコミュニケーションを取ることは、食べることと同じ位大切なことですが、構音も口腔機能の重要な役割の一つです。人は下顎、舌、唇等を動かしたり歯の裏側や上顎にくっつけたりして声の通る道の形を変えることで、いろいろな発音・発声をしています。実は構音と接触嚥下では、ほぼ同じ筋肉を使います。厳密には、構音障害は言語聴覚士の専門分野ですが、現在、言語聴覚士が訪問リハビリを行っていることは少ないこともあり、在宅の訪問診療においては口腔リハビリのできる歯科が対応しているのが実情です。

「話すこと」が減る3つの原因

要介護高齢者の会話やコミュニケーションが減る原因は主に次の3つが考えられます。一つ目は、口腔に問題のあるケース。歯が抜けていると空気が漏れてしまい、聞き取りにくい発音になってしまいます。また歯が無い自分の顔に違和感を感じて、他人との接触を避けることがあります。この場合は、入れ歯を作る等、歯科治療で改善できます。二つ目は、コミュニケーション機会の喪失によるものです。高齢者は、配偶者との死別や子供の独立等で、1日のほとんどを誰とも会話しないで過ごす不活発な生活が続くと、脳・認知機能・口腔機能がどんどん低下します。デイサービス等を活用して社会との関りを意識的に持つようにします。三つ目は、脳血管障害、パーキンソン等、神経や筋肉に病変が生じて構音に必要な運動機能が障害されて話せない、話し難くなるというものです。いずれのケースでも、会話の機会がかなり減少するため、毎日、口腔リハビリを継続的に行う必要があります。

構音機能の効果的な訓練は…

発話できない方の中には嚥下障害を併発している方も多く、構音と嚥下に用いる筋肉はほぼ同じ筋肉です。そのため構音訓練は嚥下訓練でよく使うパタカラ体操を行います。「パ」は唇を開閉する筋肉の訓練、「タ」は、舌を上顎に付ける訓練、「カ」は、のどの奥に力を入れてのどを閉める訓練、「ラ」は、舌の先を前歯の裏に付ける訓練で、構音・嚥下のいずれにも必要な動作です。パタカラ体操は、口とその周りの筋肉を動かして咀嚼や嚥下の力をつける食膳の準備体操として多くの介護施設で取り入れられています。しかし在宅高齢者は舌や口のトレーニングをする機会、動機が乏しくなりがちです。そしてパタカラ体操も動作は単調で退屈を感じることがあり、継続するには季節や馴染みのメロディーにのせて、介護者も一緒に楽しく行うことがポイントです。またリハビリ器具として同名のパタカラも効果的です。その他に構音訓練に効果的なものとして、「ありさんあつまれアイウエオア、かにさんかさこそカキクケコカ、…」等の発音訓練があります。早口言葉は、うまく言葉を言わなくてはと言う意識が働き、脳が活性化するので取り入れたい訓練方法です。



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